鈴の音に誘われて5.5

 

 

 

「な~テッサイさん、この猫‥店で飼ってるのか? 今まで見たことなかったけど・・・。」

テッサイさんが入れてくれたお茶を飲みながら、俺は何気無く尋ねてみた。

もしかしたら最近、飼いだしたのかも知れない。

幾らなんでも何日も通っていて気づかないなんて事はないだろう。

聞きながらそう思っていると、「・・いえ、飼っている訳ではないのです。その‥こちらの猫殿は変わった方でして・・・気が向いたときに稀に顔を出されるのですよ。なので黒崎殿には懐いていらっしゃって驚きました。」

――気難しいので誰かに懐いたりは滅多にないのですよ。わたくしも御世話をさせて頂いているだけですからね・・。

笑いながらテッサイさんはそう語るので、予想外の返答に驚きを隠せず‥思わず膝の上の猫を凝視してしまった。

 

 

でも…確かにこの猫なら・・・それもあるんじゃないかなと、なぜか納得させられてしまう自分かいる。本当に不思議な猫だなぁ。

・・・あれ?まてよ。それじゃあ…「テッサイさん、じゃあこの猫って名前とか付いてないんですか?」

なんて呼んだらいいのか判らないので後で聞こうと思っていたのだが・・・飼ってないとなるともしかして付いてないのかも知れない。

でも、たまに来るんだから呼び名ぐらい付けてるかも・・。

そう思ってテッサイさんに向き直ると、返ってきた答えは考えていたものと違うものであった。

 

 

 

「すみません、黒崎殿。猫殿には‥とくに名前などは付けていないのですよ。・・・猫殿は、猫殿ですからね。」

最後の一言がなんだか意味深に聞こえた気がしたが、それよりも名前が無いという事にガッカリしてしまった。

「そうっすか・・。」

あからさまにトーンの落ちた声でそう一言いうと、もう一度猫に視線を向けた。

なんで俺、こんなに落ち込んでんだろ?・・・別に呼び名くらい‥、なんでも・・・。

ん?・・・何でもッ!?

俺は勢いよくテッサイさんに向き直ると、「テッサイさん!あの‥この猫の名前、俺が付けちゃ駄目ですかっ!?」

と、身を乗り出して急にそう言ったので‥さすがのテッサイさんも驚いたようだった。

「はっ?・・・猫殿のお名前ですか。―――しかし、それはですね・・・」

珍しく言いよどんでいる様子だったが、俺の膝上の猫が鳴くと‥「・・分かりました。猫殿も宜しいようですし、お願い出来ますかな?」

と、なぜか急に承知してくれた。

「・・・え? 本当にいいんですか?」

自分で言い出しといてなんだが、そんなに簡単に承諾して貰えるとは思っても見なかった。

俺が戸惑っていると、黙って頷いてくれていたので‥

「――っしゃぁ~!!ありがとうございます!」

俺は嬉しくて思わずガッツポーズを取ってしまい、何度もテッサイさんにお礼を言った。

でも今‥テッサイさん、まるで猫の意思が分かるような感じじゃなかったか・・?

・・・まぁ、そんな訳無いか。大して気にもせずにそう結論付け、

 

 

「じゃぁ、早速ッ!・・・どんな名前がいいかな?」と猫の名前を考え出した。

改めて猫をジッと見詰めると‥まるでこちらの言っていることが判るかのように、猫も静かに俺の目を見据えている。

この猫の目を見ていると、なんだか・・・。

「・・・・キス・ケ・・。」

いつの間にか自然と、口からそう発していた。

「‥そう・・キスケ‥。・・・これからお前は『キスケ』だっ! 宜しくなッ!」

膝上の猫をヒョイッと抱き上げて、自分と向き合うように持ち上げると俺は猫に告げた。

『キスケ』は俺の好きな小説家の名前だが、この猫を見ていたらなぜかこの名前が頭に思い浮かんだのだ。

「・・気に入って貰えたかなッ?」

顔を近づけてジッと見つめていると‥キスケは俺の頬をペロッと舐めてきた。

こちらの不安を気遣うようにペロペロと舐めてくれるので、嬉しくてなんだかむずがゆい。

「ぁははっ!!こらぁ~、くすぐったいだろ!・・でも、気に入ったみたいで良かったぜ。」

お返しにチューと鼻にキスをして、「本当にキスケは可愛いな~。でも、ウチは動物飼えねぇーしな。」と話ながらじゃれていると、とある事に気づいた。

キスケの左耳に鈴のピアスが付けられている事を。

 

 

じゃあ、やっぱり鈴の音は気のせいじゃなかったのか!?でも・・今は全然鳴らねぇみたいだけど。

首輪じゃなくピアスなのも気になったが、前の飼い主とかの趣味なのかな?と思うことにした。

 

 

 

それからしばらくキスケと遊んでいたら、いつの間にか外は真っ暗だ。

―やべぇっ!!親父にどやされる!

俺は慌ててテッサイさんにお礼を言ってから、ダッシュして家に向かって走った。

その日はちょうど…新月であったようで、月明かりもなく少し心許なくなるような帰り道であった。

 

 

 

 

 

「・・・店長、宜しかったのですか?」

一護を見送りながらそう言うテッサイの言葉には、猫の鳴き声が一言‥響いただけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑤の続き辺です~。急いで書いたので変なとこ多いかも・・汗。

気づいた方は温かい目で見てやってくだせぇー><;;