一護BD

 

「・・・別に、なんもいらねぇ。アンタが居てくれれば‥いぃ。」

 

 

 

 

 

7月初旬に入った頃、いつもの様に浦原商店で寛いでいたら浦原が俺に誕生日の話題を振ってきた。

 

何か欲しいものは無いのかと…。

 

 

昼は友達、夜には家族が毎年祝ってくれるので一緒に過ごせる筈もなく…だからといって割りきれずにそんな事を呟いた覚えがある。

 

『一緒に…』とは伝えずに。

 

 

だが、どこかで期待していた。

会いに来てくれるのではないかと。

アイツの事だから『一番にお祝いがしたくて…』とか抜かして、何時ものようにひょっこり現れて‥傍に居てくれるのではないかと。

 

 

だが浦原は来なかった。

30分が過ぎ…1時間が過ぎても。

 

「…くそっ!…なんだよアイツ、いつもは俺の事‥好きだの何だの鬱陶しいくせにっ・・。」

 

つい八つ当たりで壁に枕を投げつけてそう零すと、さっさと寝ることにした。

 

別に約束した訳ではない。

それなのに振り回されてる…浦原に。

気付きたくない、俺の中でアイツがどれほど大きくなってしまっているのかを…。

 

これ以上何も考えない様にと…。

 

 

(ぃたたっ…顔が・・・)

傍で見守ってる誰かに気付く事もなく。

 

 

その夜、一護は暖かい何かに包みこまれるような…夢を見た気がした。

 

 

 

 

翌日、朝から家でも学校でも祝われた。『おめでとう』と…。

嬉しい筈なのに…物足りなさを感じるのは欲張りなのだろうか。

 

 

「いっちごーーー!!誕生日おめでと…ぐほぁぁっ……!?」

 

学校へ向かって歩いていると、やけにハイテンションの圭吾が突っ込んできた。

途中で躓いて顔面からスライディングしていたが…まぁ大丈夫だろぅ。

そこへ後ろから水色が来た。

 

「おはようございます、浅野さん。ちょっと邪魔何ですけど…!浅野さん。」

 

そういいながら、笑顔で圭吾の屍を踏み付けて一護の所にやって来た。

「おはよう一護、今日誕生日でしょ!おめでとう。」

 

より爽やかな笑顔でそう言われ…「おぅ、サンキュー。」

と返事をした。

 

 

「ちょっとちょっと~俺だけのけ者はやめてー!…とぅ、‥グホッ!・・・何故だ、俺にだけ見えない壁の妨害がぁ~~!」

 

 

今日も朝から賑やかだ。

 

 

 

授業が始まると、皆静かに教科書を開いている。

この教師は目を付けられると厄介だからだ。

 

俺もここの所、死神代行の仕事が忙しい為‥授業に遅れがちなので、必死に問題に取り組んでいた。

 

「…っと、ここはどの公式だっけか?いゃ、Хを代入するのが先か…?」

 

問題の途中で躓いてしまい、ペンで紙をノックしながら考えていると、

 

(…ここはこの公式じゃなくて、先にこの数値をもとめて‥こうしてあげるんすよ。)

 

 

ふと解き方が閃いた。

まるで誰かが教えてくれたかの様に…。

なんとなく浦原の声が聞こえた気がした。

 

 

――はぁ~。俺‥相当重症じゃね?

 

 

そんな自分に溜め息を付くと、再び問題に取り掛かるのであった。

 

 

 

放課後、今‥浦原商店の前に佇んでいる。

 

本当は今頃、圭吾達が誕生日会を開いてくれる予定だったのだが…水色が気をきかせてくれたのだ。

 

 

「…一護、今何考えてる?誕生日会なら気にしなくていいよ。僕が適当に言っておくから。…だから一護は‥今想ってる人の所に行きなよ、…会いたいんでしょ?」

 

そう笑顔で見送られた時には、相変わらず鋭くてヒヤヒヤしたが、今は有り難かった。

 

 

祝われたい訳じゃない。

ただ会いたい…その一心で。

 

 

だが店にも浦原は居なく、テッサイさんが出迎えてくれた。

 

「申し訳ありません、黒崎殿。店長は…昨夜から出掛けておりまして…」

 

後の話は覚えていない。

テッサイさんは色々と気遣ってくれていたようだが、俺はふらりと家に帰ってきていた。

 

 

 

 

「…何だよ‥何なんだよ!…確かに今日無理っつったのは俺だけど、なんでいねぇんだよ!…なんでっ・・・一緒に居てくれないんだっ!」

 

部屋に飛び込む様に入ると、耐え切れずに嗚咽を堪えながら声を殺して叫んだ。

ただ‥浦原に会いたいと。

 

 

(…一護さん・・・。)

 

 

その時、背中から誰かに抱きすくめられている様な温もりを感じた。

そして僅かに香る、キセルの香り…。

 

 

「…浦原?ぉい!居るのか…何処だっ!?」

 

慌てて辺りを見回すが、誰もいない。

困惑していると、後ろから声が聞こえた。

 

 

「…すみませんでした。君を悲しませてしまって。」

 

――アタシはここに居ますよ。

 

そう背中の温もりから浦原の声が聞こえてくる。

 

「どういう事だ…。」

説明を求めると、浦原は話しだした。

 

 

「もぅお分かりかと思いますが、今のアタシは姿が消えている状態なんです。…見えなくなるだけではなく、声や感覚も他者には感じにくくなってます。…ただ、今のように触れながら伝えようとすれば声は届くんすけどね…。」

 

そう言って手を一瞬離されると、急に浦原の存在が感じられなくなる。

再び手で触れられて、思わずほっとしてしまった。

 

「それは分かった。けど‥俺が知りてぇのは…なんでそんな事してんのかだっ!」

 

俺がどんな思いでいたかと…。

 

半分怒り任せに問い詰めると、珍しく浦原は戸惑っている様だった。

そして、少しの沈黙の後‥言葉を濁らせながら…話を続けた。

 

「それはですねぇ…えっと、つまり‥傍に居たくて。」

 

「・・・はぁっ!?」

 

「ぃえ、だから…一護さん、アタシが一緒に居るだけでいいって言ってくれたでしょ?…だから邪魔にならない様、1日中傍に居られるようにって…ちょっと薬を…。」

 

そう言って「でも失敗ッスね。…一護さんを悲しませてちゃ…。」

 

そう謝ってくる浦原を責める事は出来ず、

「バ~カ!…そんな事しなくてもアンタは勝手に居るだろ。…見えなくなって居ても意味ねぇんだよ…俺が浦原の隣に居れなきゃ…!」

 

憎まれ口を叩くように、そう返した。

 

「それよりさっさと戻れよ!…やりづれぇだろ。」

 

消えたままの浦原にそう言うと、

 

「あ、この薬‥効果24時間なんで無理ッス。」

さらりと返された。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 

「…マジかよっ!」

 

「はぃ、マジッスv…大丈夫ですよ、心配しなくても。・・・不安にさせた分、きっちりと気持ち良くしてあげますから。」

 

見えない筈なのに…今浦原がどんな表情をしているのかが分かる。

 

 

 

「なんでそうなんだよ!いらねぇ~!!」

 

慌てて抵抗するが、かなう筈もなくあっと言う間にベットに押し倒されてしまった。

 

 

 

「…一護さん、目を開けて‥」

 

押し倒された衝撃で思わず目をギュッと閉じていた俺に、浦原は囁いてくる。

その言葉に抵抗できず、そっと目を開くと…エメラルド色の瞳が見つめていた。

 

 

「誕生日おめでとうございます。…一護さん。」

 

 

やっと会いたかった相手の笑顔に…自然と顔が綻ぶと、「…あぁ。ありがとな。」

 

 

返事と共に、浦原に手を伸ばし‥どちらからともなく唇を重ねるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・はぃ。何だこれ!一護の独白みたいになってしまった(汗)

あぁ!石を投げないでください><;;

ちなみに浦原さんが元に戻ったのは、薬飲んだのが0時じゃないからですw