初めて言葉を交わしたあの月夜から…金色に染まっていく。
瀞霊廷での朝…
「おはようさん、喜助。」
いつもの挨拶…ただそれだけの事に鼓動が高鳴る。
今日もいい天気だ。
猫背ぎみに前から歩いてくる姿に下駄が軽快な音を鳴らす。
しかし今日はいつもとは違った。
「お、おはようござ‥ぃっ!…ふ、ふみまへん//」
長い髪をなびかせ‥笑みを浮かべる平子にドキドキしつつ、平静を装ったつもりだったが、焦って舌を噛んでしまったのだ。
――うぅ、恥ずかしいッス…。
普段は侵さない失態に頬が熱くなるのを感じる。
見惚れてたの‥気付かれたらどうしよぅ・・・
そんな内心を‥苦笑いで誤魔化そうとしたが、この些細な出来事…
これが喜助の日常を壊すことになるとは夢にも思っていなかった。
そんな様子に平子は、
「なんや?大丈夫かぃな、ほれ見してみぃ。」
半分呆れた様子で‥しかし心配そうに口元へ手を伸ばした。
――ひ、平子さんの手がっ…///
自分へと伸ばされた手が、まるで長い時を経ているかの様にスローモーションに感じられる・・・
しかし確実に、ゆっくりと指が‥口元へと迫ってくるのが目に焼き付いた。
――‥っ!!心臓‥が破裂しそう…ッス//
その覚めぬ一瞬に喜助は耐え切れず、触れる瞬間…思わず手を払い除けてしまったのだ。
「―――っ!」
「あっ!・・・すいません‥。」
咄嗟の事とはいえ、自分のした事にハッとし‥謝る…が、
払ってしまった手を押さえながらいたたまれずに俯いてしまう。
お互い、微妙な空気が漂うが…
先に平子が声を掛けてきた。
「ぃや、別にえぇけど…喜助、お前・・・」
あからさまに不自然な様子に平子は眉を寄せ、何か口にしようとするが…
「ホントすみませんッス!!」
平子が言い終える前に叫ぶ様に再度謝ると、喜助は瞬歩で逃げるように立ち去ってしまったのだった。
「おぃ…ちょっ・・・。」
残された平子は呆然と立ち尽くしか為す術がなかったが・・・
「…逃げられてしまいましたね。」
背後から副官の冷静な一言が聞こえ、ため息をついたのであった。
はぁはぁ…
逃げ帰った先では、
「ど、どうしよう‥平子さん、絶対変に思ったッス!次にどんな顔して会えばいいんスかぁ~。」
頭を抱え込み‥苦悩する喜助の姿があった。
そんな喜助には手を振り払った際、平子がどんな表情をしたのか…知る由もなかったのだった。
それから、平子と顔を合わせられずにいる喜助だったが、
「お疲れ様です、平子隊長!」
そんな最中、見張りの隊員が声を張り上げて挨拶をしているのが耳を掠めた。
――平子さん?
その名に反射的に身を隠してしまうが‥やはり気になる。
気付かれぬようそっと様子を伺うと、必死に頭を下げている隊員に声を掛け、ぽんっと頭に手を置いている平子がそこにはいた。
「お疲れはん、頑張っとるなぁ~。」
隊志を労う彼らしい行為。
だが…気付けばその隊員を冷たい表情で見つめている自分がいた。
――僕は触れられないのに…
いとも簡単にやってのける隊員に軽い嫉妬を覚える。
そして辺りが隊員のみになるや…ふらっと隊員の前に姿を現し、驚く隊員をよそに喜助は手を伸ばしたのであった。
それから数日が経つが…未だに顔をあわせられずにいた。
深夜…誰もいない技術開発局から僅かに光が漏れる。
あの日以来、自宅にも帰らず研究に没頭する日々を送っていた…。
帰れば彼に会いたくなってしまう…朝、あの道を通りたくなる。
そうしたら…
・・平子さんに触れたくなっちゃうじゃないッスか。
触れられるのを避けたのは自分の筈なのに、ばかげた話だ。
触れたい…でも触れられるのが怖い。
彼の一部が…肌が、髪が‥
触れたら最後、彼への気持ちがあふれ出てしまいそうで・・この気持ちを悟られてしまうのではないかと…怯える自分がいる。
今まで感情を殺すことなどわけが無かったのに…
こんな自分は知らない。
「…駄目ッス。こんな自分‥知られたくない・・。」
「誰にや?」
知らずに口から零れた一言…
しかし、シンとした部屋の中、突如自分ではない声が響き‥その声に喜助は我に返った。
「―――っ!!何で…、…平子‥さ‥ん……」
驚き振り返ると…
いつの間にか、扉に寄りかかる様な格好で平子が立っている。
「戸ぉ~空いとったで、相変わらず不用心なやっちゃな~。」
予想外の出来事に一瞬、呆然としてしまったが…
以前と全く変わりない平子に‥チリッっとした胸の痛みと、微かな落胆を感じ…
しかし、そのお陰か‥なんとか落ち着きを取り戻したのだった。
そして…
「…なんの御用ですか?」
冷めた表情でそう一言、口にしたのであった。
「なん…って、お前に依頼があるやけど…」
喜助の態度に戸惑いを見せる平子だったが、
「そうですか…でも今日は僕もう帰るので、またにして貰えませんか?」
…大体、こんな時間に非常識ッス。それにこの場所は‥関係者以外立入禁止ですよ?
平子の様子など、お構いなしに冷たくあしらう。
そして帰ろうと背を向けたその時…
「――待てや。」
今までに聞いたことの無い‥平子の低い声と共に、気付けば壁際へ押しやられている自分がいた。
「…そう何度も逃げらろぅと思うとんのかいな。」
そして、自信たっぷりの笑みでニヤリと笑う平子が前にいる。
「なっ!何するんですか、離して下さいっ!」
気丈に振る舞い‥腕から逃れようとするが…
・・・出来なかった。
あんまりにも近くに平子がいる…
それだけでもおかしくなりそうなのに、触れずに逃れることなど到底無理だ。
そして、自分の心にも…
抵抗を無くし顔を反らした喜助に…
「もぅ逃げへんのかぃ…。」
問うが、何の返事もない。
そんな喜助を見つめたかと思うと…
「…や~っと捕まえたわ~。」
肩を落とし‥安堵のため息をついたのだった。
そんな平子の優しさが逆に辛く…ついに耐えていたものが涙と一緒に溢れだした。
「――なんで‥何でこんな事するんスか!?…僕が‥どんな思いでいたと思っ‥て…、知らない癖に‥っ!お願いですから‥もぅ関わらないで下さい…。」
俯きながら懇願する喜助だったが、平子はそれを受け入れない。
「知っとるわ。」
決して大きな声では無いが‥そう、ハッキリと口にしたのだった。
思いもかけない台詞に
ビクリと反応を示した喜助だったが…
「そないなっとらんで俺のこと見ぃや。」
平子の言葉に観念して、少しの沈黙の後‥ゆっくりと顔を上げると、鼻先が掠めそうなほどまじかに平子の顔があった。
思わず目を見開き、固まってしまった喜助だったが‥平子は唇をそれて・・・
代わりに、耳もとに平子の髪が掠めるくすぐったさと、『チュッ』っとした音と共に…吸い付くようなぬめりとした感触を感じたのであった。
「・・・・な、ななななっ…///」
あまりの出来事に、何が起きたか理解できずパニくる喜助だったが…
駄目押しに、そのまま耳元で‥
「俺んことめっちゃ好きなくせに。」
…と囁かれ、真っ赤になってそのままへたり込んでしまった。
そして涙目で平子を睨み付け、
「……意地悪。…馬鹿!えぇかっこしい!…なんで‥こんななのに…………好き。」
散々の罵声の後に、一生言うつもりの無かった言葉を呟いた。
「やぁ~っとゆうたな~。」
そんな喜助を包み込むように抱きしめ、平子は‥ポンポンと背中をあやす様に落ち着くまでそうして居てあげたのだった。
「・・・平子さんは?」
「さ~、どないやろぅな~?」
落ち着いてきた喜助は、おそるおそる尋ねるが平子は曖昧に躱してしまう。
「僕に言わせといて狡ッス!」
すっかりいつもの調子に戻り、ぶつぶつと文句を言いだすが、
そんな喜助を手招きして呼んだかと思うと、額にデコピンをして…
「お仕置きやからな、自分で考えぃ…。」
そういってあっさりと帰ってしまい、はてなマークを飛び散らせる喜助が残されたのだった。
「…僕、なんかしましたかねぇ~?」
そして後日。
「平子隊長‥お疲れ様でした。」
無意識の喜助による、平子と接触した五番隊隊員及びひよ里への撫でまわし行為が解決され…
安堵に満ちる隊員達と、ひよ里にボコボコにされた喜助がいたとか・・・。
しかし、「平子さんの匂いがするッスぅ~」と呟きながら‥被害にあった隊員達は、暫らくは平子に近づかなかったという。
みぎゃぁーー!!!
こんな文章でスイマセン><;; リクに添えてないような…(汗)
あ‥やっぱり没にしようかな? 気に入らなかったら速攻言って下さい!!書き直しますから!
えと、1周年リクありがとうございました~v
Bちゃんへv サクより