鈴の音に誘われて1

 

 

 

この小説はパラレルです。死神は関係ありません。それでも良いという方のみどうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

――チリン――チリ――――

闇夜の中から鈴の音が聞こえてくる
この音色は少しずつ・・・しかし確実に一護を蝕んでいく。
それは、一護がこの鈴の音に囚われていく事になってからだが、今はまだ知る由もなかった。

 

 

放課後。相変わらず啓吾がハイテンションで話しかけてきた。

「いっちごーーーーッ!!!!今日暇か!?暇だろ~っ!!最近付き合い悪いじゃん!偶にはカラオケとか行って、パーッと遊ぼうぜぇ~!! なぁ、水色!お前も行くよなっ!!」

声と同じ位の勢いで突っ込んでくる啓吾に対し、五月蝿い・・とエルボーを喰らわせていると

水色は相変わらず涼しい顔を崩さずに、「え~、どうしよっかな?今日は由美子さんが遊んでくれるみたいだし。」

啓吾をからかいながら、さらっとかわしている。…後ろで「お姉さまかっ!?またお姉さまなのかっ!くそ~、友情とお姉さま!どっちが大切なんだ!」なんてブツブツ言う声が聞こえてくるが「勿論、お姉さまに決まってるじゃないv」と笑顔で一蹴されたのは聞くまでもない。

水色は喚いてる啓吾はほおって置いて――― 一護は如何するの?と聞いてきた。

そんな二人を横目に見つつ・・

「・・・わりぃな。今日はちょっと、用事があって急ぐんだ。すまねぇ!」

水色の一撃で自分の世界に入っていた啓吾は、それを聞くと急に復活して「なにっ!!一護っ、お前もなのかっ!?お前もどこぞで彼女とか作っちゃって会いに行くんだろ!!…俺との童貞同盟を裏切るのかっ!?そうなんだなっ!!」

と、またごちゃごちゃ煩いのが始まった。

あぁ~煩ぇ。ってかそんな同盟、入った覚えねぇーし・・。

さも面倒くさそうに、はぁっ・・と溜め息をつきながら適当にあしらっていると、水色が思い出したかの様に話しかけてきた。

「そういえば、今日は…一護の好きな作家の新刊が出る日だもんね。・・急いでるって本屋?」

水色の言うとおり、今日は待ちに待った新刊発売日だ。

俺の好きなミステリー作家「キスケ」は、今人気大絶頂の作家で…新刊は発売されてからあっという間に完売となってしまう。

だからこそ、俺は急いで買いに行きたい訳だが・・・

そんな話は一向に聞いていない・・もしくは聞いていても理解できていない啓吾は、相変わらず騒ぎ立てているので水色に任せることにしてさっさと本屋に向かうことにした。

 

 

――はぁ―――はぁっ――――ッ

 

走って本屋へと向かう。啓吾達と話してたせいで思いの他、時間を喰ってしまった。

急いで行かないと・・・。

信号待ちの時間ももどかしく、息を切らしながらやっとでたどり着いた本屋の新刊コーナーに目を向けると…

そこには、場違いな程の変わった格好をした男が本を1冊持って立っていた。

慌てて駆け寄り、新刊が残っているか見てみると・・既に1冊も無く、俺は肩をガクッっと落とす事になったのだった。

一護は盛大に落ち込みつつ、明日啓吾に八つ当たりしてやろうと考えながら顔を上げると、傍にいた男の持っている本の表紙が何気なく見え…驚いた。

それは、まさに一護が求めてやまない「キスケ」の新刊であったからだ。

見てしまうと、余計にその本が読みたくなる。

一護は諦めきれずに、男が本を買うのか買わないのかそわそわしながら様子を伺い、譲ってくれと頼もうかと迷っていた。

いつもなら、頼み込んでいるかもしれない。

しかし・・・それを躊躇わせる男は、見るからに怪しすぎた。

作業服の上に羽織を着て、緑と白のストライプの帽子を深々被っているその様は・・傍から見ても怪し過ぎる。

いやっ!!でも・・人は見た目じゃないっ!と自分に言い聞かせ、勇気を振り絞って一護は声を掛ける事にした。

 

「・・あ・あのっ!!・・・突然すいません!・・」

いざ声を掛けては見たものの、緊張して声が裏返ってしまった。・・しかもかなり大声で話しかけた気がする。

相手の顔はよく見えないものの、やはり驚いているようでポカーンとしていた。

失敗した・・やっぱりよしときゃ良かった。と、自己嫌悪に陥りつつ・・やっぱり何でもないですと立ち去ろうとすると

相手はこちらを見てニコッと笑い、「はい、なんでしょうか?」と優しい声で答えてくれた。

俺はその声に安心させられ、さっきまで怪しい奴とか思ってて失礼だったなと思い直しながら肝心の用件を口にした。

「その・・もし宜しければ、そ・その本を俺に譲ってくれませんかっ!?」

決死の思いで口にして様子を伺うと、相手はいまいち状況が掴めていないのか・・「これっ?」なんて首をかしげて持っている本を指差した。

いざ言ってみたものの、この時の俺は少々・・いやかなり錯乱していたかもしれない。というかしていた。

たどたどしく必死に理由を説明しようとしたのだが・・

「えっと・・俺、その好きなんです!だから本が欲しくて・・その!最後の1冊だから下さいッ!!」

・・・・・あれ?俺、今なんか変な風に言わなかったか!?これじゃ、俺が本が欲しいのがコイツが好きだからみたいじゃッ!!?

自分の発言に更にパニクって真っ赤になり、心の中でギャァ――ッ!とか叫びながらバタバタしていたら傍から笑い声が聞こえてきた。

それも、耐え切れないという感じの大笑い。

すっかり相手の存在を忘れて混乱していた一護は、ハッとしてそちらを見るとそこには笑いを堪えるのに必死で…でも全然堪えられてない男が居た。

笑いすぎて滲んでいる涙を拭いながら、「すいません、つい――」と言いながら、未だにヒーヒー笑っている。

少しすると、粗方落ち着いたみたいで――あ~お腹痛かった。――などと言っていた。

正直、かなり気に入らない。啓吾辺りならボコボコにしていただろう。確かに自分のせいでもあるが、なにもあそこまで笑わなくてもっ!

露骨に表情に出ていたのか、――本当にすいません。――と何度も謝られる。

そのせいか、怒るに怒れなくなってしまった。

 

「で!この本を譲って欲しいんですよね?――いいですよ。」

急に話題が戻り、しかもサラッと告げるもんだから今度はこっちが驚いた。

何のことか判らず、しばし呆然としてしまったが直ぐ正気に戻り・・

「って!いいのかよっ!?アンタその本が欲しくて持ってたんじゃないのか!?」

自分が欲しくて言ったことなのに、思わず聞き返してしまった。我ながら矛盾している。

男はそんな俺を見詰めながら相変わらずニコニコして、「違いますよん。」とまたもやサラッと言いのけた。

それを聞いて今度こそ固まったしまったが、そんな俺は露知らずとばかりに男は話を続けた。

「アタシはですね~、たまたま通りがかってここを覗いたら、これが1冊だけ残っていたので…この本は一体どんな人に買われていくのかな~と思って眺めていた所ですよ。で!こんな子だったって訳ですねん。」

と、俺を見てニコニコ笑った。

・・・・なんて奴だ。格好だけでなく中身まで変なんて。

思わずグッタリしていると、男は「でも・・君みたいな子に買われていくなんて、その子もきっと幸せですね。」と呟いた。

その呟きと…本を撫でてる仕草があまりにも優しげなので、その問いには何も答えられなかった。

 

結局、本は無事譲ってもらえたので会計を済ませ…俺は一様、お礼を言いながら帰っていった。

去り際に男が「では、またの機会に・・・。」などと言っていたが、もう会うことは無いだろう。

名前も知らない相手。本は有難かったが、怪しい奴には変わりない。気になるのはきっと・・男があまりに変な奴だからだと思った。

少年が去っていくのを見送りながら、男はクスッと笑い・・

「―――オモシロイ子・・。」と呟いていたが、一護に届くことはなかった。

 

 

 

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