「今年もあと一月で終わりじゃのう。・・そうじゃ、年末はお主の誕生日だったな。全く傍迷惑な日に生まれよって!」
「夜一さんこそ年明けが誕生日じゃないっスか!お目出度い日ッスよねぇ~。」
二人が何気無く話している内容に俺は、思わず反応してしまった。
浦原の誕生日!?・・・アイツにも誕生日ってあったのか‥じゃなくて!年末って事は31日だよな。
何かしねぇと・・。
それからの記憶は定かではないが、俺は悶々と何をしたらいいかと考え込んでいた。
それから数日後、俺はと言うと未だに何をしたらいいか悩んでいた。
浦原は俺の誕生日、夜に部屋にやってきて祝ってくれた。俺は素直になれなかったが凄く嬉しかった。
だから俺も…喜んでもらえる何かをしたい。
けど・・・、アイツ欲しいもんとか全く分かんねぇし。ってかアイツが手に入れられねぇ物が俺に手に入れられる訳がない。
じゃぁ、何かするとか?プレゼントは俺v・・・とかは、無理無理無理!!絶対出来ねぇー!
とりあえず、適当に店回りながら探してみようかな。
そんな事を思い、特に当てがある訳でもなくブラブラとしていたら何かの店の前に石田がいるのを発見した。
・・・何やってんだ、アイツ?
「よっ!石田、何見てんだ?」
そう思うと‥素通りするのもなんなので声を掛けてみた。
すると何故か凄く驚いた様子でその場から飛び去られたので逆にこっちが驚いてしまった。
「なっ・なんだ、黒崎‥君か。まったく驚かせるんじゃないよ。・・で、何か用かい?」
見るからに挙動不審で、石田らしくないと思いつつも「いや‥用って訳じゃねぇけど、何見てんのかと思って。」
そう答えながら石田が見ていた辺りを覗いてみると、そこには大人っぽいデザインのセーターが飾ってあった。
「セーター?」
思わすそう呟くと「あぁ、冬といったら手芸部は編み物が主流だからね。べっ別に、誰かに編もうとか考えていた訳じゃ無いからな!そこの所勘違いするなよ!」
別にそんな事聞いてねぇのに・・慌てて言い訳をしてる姿は普段の冷静さの欠片も無く、思わず噴出してしまった。
見ていたセーターのデザインから見て、父親でも作るのだろうか?
「このっ!笑うなっ!!・・・全く‥そういう君こそ何をしているんだい?」
これ以上この話に触れたくないのか、逆にこちらの事を聞かれたので
「えっと‥実はさっ、もうすぐ浦原の誕生日みたいなんだけど・・・アイツ何でも持ってそうだし、何あげたらいいんか判んなくて‥取り合えず探して回ってたんだ。」
俺がそう答えると、石田は何かを考え込む様子をし出したかと思えば・・・
「じゃあ、君が何か手作りの物でも贈ってあげたらどうだい?‥そうだね。今の時期だとマフラーなんかが良いんじゃないかな。初心者でも簡単に作れるし。」
などと言い出した。
俺が編み物ぉ~!?・・・あんなちまちましたもん作れるか?
でも‥確かに俺が作ったもんなら多分、喜んでくれると思うし・・・普段寒そうな格好だしなぁ。
「君もこの機会に手芸の素晴らしさを学んだらどうだい?・・もし良ければ僕が教えてあげなくもない。・・・だがその代わり、さっきの事は誰にも言うんじゃないぞ!」
どうやら先程の件はそんなに知られたくないみたいだ。別に言いふらすつもりなんてないが、
そうだな。浦原が喜んでくれるってんなら・・・。
「おぅ!じゃぁ・・お言葉に甘えて、教えてもらってもいいか?」
俺は石田の案を呑み、手作りのプレゼントにすることにした。
編み物は思ったより難しく、始めはどうも上手く出来なくて苦戦してばかりだった。
石田の指導のもと、何とか簡単な編み方を覚えて一人で編めるようにまでなった。
毛糸やら編み棒やら・・意外とゴチャゴチャして難しいんだなぁ~。
そして後もう一つ、石田から特別な編み方を教えてもらった。
それは・・「いいか黒崎、こうして―――編むんだ。そうすると君だけの特別なマフラーになるぞ。それにこれには君にとっても悪い話じゃない。・・・・・・・・・のさ。」
普段、口煩い小言が無けりゃぁ~意外といい奴なんだがな。
そう思いつつ、「ありがとなっ!」とお礼を言い、マフラー作りに取り掛かるのであった。
とは言っても普段、まさか学校で編むわけにもいかず…自室でちまちまと少しずつ作成しているのだが・・
隠しながら作るのがこれほど大変だとは思わなかった。
まさか、「アンタのプレゼント作ってるからしばらく店には行けねぇーから。」など言えるはずもなく、
だからと言って、誤魔化すにも限界がある。
しばらくは、年末は掃除とか家の手伝いがあって忙しいからあまり来れないかもとか言って誤魔化してたが‥そろそろ限界だ。
疑われない程度に店には顔を出してるつもりだが、何日かぶりに行くと‥アイツ、俺が足りないとか抜かして―――して来るもんだから正直体が持たない。
これは、浦原商店に通いながら作るしかねぇな。・・自分の為にも。
その日から、一護は睡眠時間を削るようにして作っていくのであった。
そして、12月31日。PM11:30。
「―っ!出来たぁ~~~ッ!!」
達成感から一気に力が抜けて、ボフッっとベットに倒れこんだ。
はぁ~~っ、良かった。何とか間に合ったぜ!…後はこれをラッピングして渡すだけだ。
気づけは今日は後30分しかない。
出来上がった物を丁寧に包んでから、俺は急いで浦原商店へ向かった。
はぁはぁっ・・。
必死に走って店へ向かうと、店とその店先に佇んでいる浦原が見えてきた。
俺は浦原の前まで行くと、あがった息を整えもせず「なっ・なんでっ・・・。」ここに居るんだと聞こうとすると
それは途中で遮られ、「一護さんを待ってたんすよ~。そろそろ来てくれる頃かなって思いましてv」
浦原はそう言い、「そんなに息を切らして走ってきて‥寒かったでしょ?ほらっ…。」と、羽織を広げ俺を包み込むようにして抱きしめて温めてくれた。
こんな些細な事でも実感する‥あぁ、俺やっぱり浦原が好きだ。どんどん好きになっちまって正直困る。
そうだ、時間・・後10分しかない。
少し名残惜しいが、俺は浦原から離れるとプレゼントの包みを取り出した。
「浦原、あ・あのさっ‥これ・・・やるっ!!・・・誕生日プレゼント。」
どう言って渡すかあれこれ考えたのに、いざとなると素直に言えず押し付けるような形になってしまった。
ちゃんとおめでとうって伝えてぇのに…。
でも浦原はそんな俺の様子を気にすることも無く、
「えっ?アタシにッスか。ありがとうございますv・・・開けても?」と嬉しそうに聞いてくる。
俺がコクコクと頷くと、包みを丁寧に開けて中身を取り出した。
「ぅわぁ~、綺麗ッスね~。これ‥マフラーですか? もしかして一護さんが編んでくれたの?・・アタシの為に?」
取り出したマフラーは暗がりの中、仄かにオレンジ色に光を放っていた。
優しく暖かな色で、まるで一護そのものだ。
実際は深い森林を思わせるような綺麗な濃緑なのだが、闇の中だと光のせいか温かい色に思わせる。
「・・おぅ。」
確かに俺が編んだのだが、改まって言われると恥ずかしい。
‥でも判ってもらえて嬉しい気持ちもあって、結局その一言を口にするのが精一杯だった。
そう言ってそっと顔に手を添えると、眼の下の隈を撫で…チュッっとこそにキスを落とした。
「――っ!!な・なっ!!?」
キスされて真っ赤になって慌てふためく俺をよそに、「・・・一護さん、これ‥巻いてくれませんか?」
とマフラーを差し出して、こちらに身を屈めてきた。
「・・ちょっと、ジッとしてろよ‥。」と言って浦原の首にマフラーをそっと巻きだした。
「・・・もうイイッすか?」
ちょうど巻き終わる頃、そう聞かれて「いや・・・まだだっ‥。」と答えながら胸元を思いっきし引っ張り、バランスを崩して此方によろめいてきた浦原にキスをした。
「えっ?・・んっ・・・。」
思いもよらなかったのだろう、俺からキスをするなんて・・。
・・・唇を離すと‥ポカーンとした顔でいる浦原に、首元にしがみ付くような形で抱きつき「――誕生日おめでと。生まれて来てくれて‥俺と出会ってくれてありがとう。」
そう聞こえるか聞こえないか位の声で、囁いた。
そして離れると、まだ驚いている様子の浦原に向かってニヤリと悪戯っぽく笑ってやった。
やられっぱなしじゃ悔しいので、今日くらいは俺にやられておけばいい。
その笑みを見て浦原は一瞬さらに驚いたような顔をしたが、直ぐに普段の表情に戻ると・・
「・・・まいったッスね。一護さん‥アタシにそんな事言っていいんすか?…もう、一生手放せなくなっちゃいますよ。」
嬉しそうな‥それでいて少し困ったような表情で、微笑んでいる浦原がそこには居た。
「‥なんだよ、手放す気なのか?俺が嫌だっつったら離れられる・・アンタはそんな程度なのかよッ!」
そんな事をいうもんだから、ついむきになって声を荒げてしまう。
浦原は俺と同じ気持ちじゃないのか!?・・・いつかは俺を手放すつもりなのか‥。
しばらくお互い無言でいたが、浦原は俺から目を逸らして空を眺めると‥唐突に話をしだした。
「―――少し‥昔話をしましょうか。アタシが宝玉の作成者だって事は知ってますよね?・・アタシは技術開発局でアレを開発した。ですがね、もっと作ってるんスよ…色々とね。たった1つの発明品で、国一つ滅ぼせる物もありました・・それをアタシは作ってきた、己の追及心を満たす為に。何に使われるか判っていても…命令されれば開発しました。・・・分かります?アタシは数え切れない程の人を殺してきてるんスよ。」
そう話す浦原の目は、背筋が凍りそうな程・・暗くそして冷たかった。
そう言って此方を振り向いた浦原の目はやはり暗い。けれど、どこか悲しそうな色をしていた。
今突き放したら浦原は一生俺の所に戻ってこない。なぜかそう思わせられた・・。
「・・俺はアンタに幸せにして貰いたくて一緒に居るんじゃねえ。アンタが‥浦原が好きだから、俺が一緒に居たいからッ…だからいるんだっ! ―――それにアンタが良い奴じゃねぇなんて事、初めから分かってんだよ!初対面から胡散臭せぇーし‥俺を騙したり利用したりなんてしょっちゅうだぞ? ‥でも、そんな事関係ねぇーんだ!例えアンタがどんな奴だろうが、俺は浦原だから好きなんだ。お前じゃなきゃ・・駄目なんだよっ。それなのに、何でそんな事言うんだ‥手放すなよ。 ・・・もしアンタが道を外したら俺が引きずり戻してやる。アンタが嫌だッつっても俺が離さねえ・・。一生手放せなくていいんだ。・・・それでももし、アンタが駄目になったら‥その時は、俺がアンタを殺してやるよ。」
そう言った俺の言葉を黙って聞いていた浦原は、たまらないという感じで顔を押さえて急に笑い出した。
「フフッ・・ぁはは・・ッ、あははハッ‥。」
「なっ!何が可笑しいんだよ!‥俺は真面目に・・。」
話しているんだと言おうとしたが、浦原の声は笑っているのにまるで泣いているようでそれ以上言えなかった。
「・・君が?アタシを殺してくれるのっ?」
「そ、そうだよ。…大体、俺はアンタに易々と縛られるほどやわじゃねぇーんだっ!」
「君が守ろうとしている人を簡単に見殺しに出来る・・そんなアタシでも?」
「俺が守ると誓った奴は俺が守る!・・浦原、アンタもだ。――それにアンタは自分が思っているほど非道になりきれてねぇよ、結局は助けてやってるしさ・・。」
「・・・君を好きでいても?」
「ここまで言わせといて好きじゃねぇなんて抜かしたら、ぶっ殺すかんなッ!!」
「ははッ・・まったく君って本当に馬鹿ですねぇ~。最後のチャンスだったのに。もう、君がどんなに嫌がっても離しませんからね。・・・愛してます。‥後悔しても遅いッスよ。」
そう言うと、浦原は俺を強く抱きしめた。まるで縋り付くように・・。
そんな浦原の背を優しく撫でながら、
「馬鹿はアンタだっ!ゴチャゴチャと言いやがって・・たった一言でいいんだよ、祝ってやってるんだから『ありがとう』で!」
少し怒ったような口調でそう伝えると、「そうですね・・ありがとう一護さん。こんなアタシを好きでいてくれて。」
と言って、どちらともなく近付き‥再びキスをした。
そうしていると、いつの間にか除夜の鐘も聞こえなくなり‥年が明けていた。
二人して顔を合わせると、「明けましておめでとう」 「おめでとうッスv今年も宜しくお願いします。」
新年の挨拶をお互いに言い合った。
「クシュンッ!」
しばらく外に居た為にいつの間にか体の芯から冷えてしまっている。
思わずクシャミをしてしまうと、「大丈夫ッすか!?・・スイマセン、アタシのせいですね。」
と言って俺に羽織を掛けてくれた。
これじゃ浦原が寒いんじゃ・・と言おうとすると、「外は寒いですし、店へ寄って行きませんか?・・そんな冷え切った体で帰すわけにはいきませんよ‥。」
と、強引に店に連れられていく。
「アンタはどうなんだよ!寒くないのか・・?」
今は作業着姿なので、俺なんかよりずっと寒々しいと思うのだが・・
「アタシは大丈夫ですよん。・・一護さんから頂いたマフラー、君の霊圧が篭っていてとても暖かいですもんv‥心も体もね。・・・やっぱり、一護さんの愛がたっぷり詰まってるからッスかねぇ~v」
ニコニコしながらそんな事を抜かしてきた。すっかりいつもの調子だ。
「そっそんなん詰まってねぇーよっ!!」
急に恥ずかしくなって思わず反論すると、「そんな事ないっスよ。君は本当に不思議な子だ・・。」
と、急に優しく笑ったかと思えば「では、二人で愛を誓い合った事ですしv今日は一護さんを温めながら、姫初めでもしましょうかねんv」
などと恥ずかしげも無く、とんでもない事を言っている。
「なっなっッ!!・・・。」
真っ赤になりながら声にならない声をあげて、口をパクパクさせていると‥チュッとその唇にキスをされ、
「・・言ったでしょう?もう、逃がしてあげられないって。・・諦めてアタシに捕まっていて下さいなv」
そう呟いて‥「今夜は寝かせませんよ~v」と上機嫌で店に連れ込む姿を、見たとか見ないとか・・。
ぎゃぁぁーーーっ!!ラブラブ予定だったのにっ・・なぜに途中シリアス入っちゃってんの?
後日談 → 浦原さん 一護