鈴の音に誘われて5

 

 

―チリ――チリン―――

 

今日も鈴の音が聞こえる。

段々と小さくなるその音色は、拒絶している様で助けを求めているようにも聞こえた。

  

 

 

 

放課後、毎日のように浦原さんちで小説を読みながら雑談をしているのが日課になっていて、それは俺の楽しみでもあった。

浦原さんの書き溜めた小説は様々なジャンルを自由奔放に表現しており、その小説の中でのみ創造される不思議な世界に俺はのめり込んでいた。

今までにこんな話は読んだ事がない。けれど本屋で売られているどの小説よりも面白く、読ませて貰えるのが嬉しくて仕方がなかった。

けれども、今日だけは違った。

 

いつも通り店に行くと、そこには「臨時休業」の札が掛けられていた。

えぇ?俺、そんな話聞いてねぇーぞ!?

・・・昨日俺は用事の為、浦原商店に来れなかった。前に来た時はそんな話なんて聞いていないので急な用事でも出来たのか?

だからと言って「じゃあ帰るか‥」という気持ちには何故かなれなくて、もしかしたら誰か居るんじゃないかと店の裏へ回ってみる事にした。

 

 

裏口へ回って庭を覗いてみるが、人がいる気配は感じない。

やはり誰もいないのか…と、諦めて帰ろうと思ったとき、 ――ン―・・―ン―― 微かに音が聞こえた気がした。

何故かその音色に引き寄せられるように‥11歩、足を踏み入れてしまい、気づけば裏庭まで来ていた。

「おーーい、浦原さ~ん?・・・誰か‥いないのかぁ~?」

音が聞こえた気がした方へと向かって歩きながら、呼びかけてみる。しかし、辺りは静かなままだ。

その時、目の前の部屋から鈴の音が聞こえた気がして思わず覗いてみると・・・

 

 

・・・そこには一匹の猫が居た。

それは以前、帰り道で見かけた淡い金色の毛をした猫にそっくりな猫がいた。

なんだ?浦原さん家の猫だったのか?

しばらく猫を見詰めたまま呆然としてしまったが、猫がゆっくりと動き出すと我に返り‥しかしどうしたらいいのか‥途方に暮れてしまった。

改めて部屋を見ると、ここは浦原さんの部屋だ。

けれど、臨時休業の為か店自体シーンとしておりやはり人の気配はない。どうやら本当に留守だったみたいだ。

これって不法侵入ってことになるよな?如何しよう・・、もう帰るか? けれど・・・。

目の前に居る、猫の事が気になって‥なぜか動けない。今帰るともう…二度とこの猫に会えないんじゃないかと・・。

 

  

 

その時、玄関の方からシャッターの開く音がし、「只今、戻りましたッ。」とテッサイさんの声が聞こえ…此方に近付いてくる足音がした。

ゆっくり襖が開けられると、テッサイさんは俺を見て驚いた顔をして「・・黒崎殿っ!?如何なされましたか?」と尋ねてきた。

当たり前だ。勝手に店に上がり込んでいたら誰だって驚くだろう。

「あの‥外に臨時休業ってあったんですけど、誰か居ないかと思って・・・。」

俺が言いにくそうに話し、「勝手に入ってすいません!!」と必死に謝ると、テッサイさんは困ったような顔をして一瞬チラッと猫の方に目を向けた。

そして、俺を見て‥「いえいえ、此方こそお伝えしていなかったのが悪かったのです。申し訳ございません。・・・しかし店長なのですが、生憎‥本日はお留守でございまして・・・。宜しければ、今お茶をお持ちいたしますので、その間‥此方の猫殿のお相手をお願いしても宜しいですかな?」

テッサイさんは怒るどころか逆にお詫びをいい、お茶まで入れてくれるという。

「えっ!?・・でも、いいんすか。浦原さん留守なのに勝手にお邪魔して・・。」

俺が戸惑ってそう言うと、テッサイさんは「勿論でございますとも!黒崎殿は大切なお客様でございますから。」

いつも通り、過ごして下さって構わないので‥そう言って、「では‥少々お待ち下さいませ。」と一言残して部屋から去っていった。

 

 

ピシャッ― 襖が閉まり、テッサイさんが出て行った事を確認してから俺は一息つき、あの神秘的な猫を見てみた。

猫はいつの間にか浦原さんの座布団の上で丸くなっており、此方の視線に気づいたのか‥俺の方を向いて ―にゃぁ~― と一声鳴いて見せた。

そこで気づいた。この猫の瞳は…金色ではなく綺麗なエメラルド色をしていると・・・。

だが余りにも似ているので、つい同じ猫の様に思ってしまう。

しいて言えば、この猫の方が金目の猫より持っている雰囲気がやわらかく感じる事ぐらいだ。

 

 

そんな事を考えていると、猫はいつの間にか身を起こして俺の方にやってきていて…膝の上によじ登ると、気持ちよさそうに丸くなった。

思わずビックリしてそのまま固まったが、猫は気にすることなく膝の上で寛いでいる。

恐る恐る‥「・・・触っても大丈夫かな・・?」と呟きながら、そろ~っと手を延ばして撫でてやると

気持ちよさそうに ―にゃ~― と喉をゴロゴロ鳴らすので、何だか嬉しくて胸の内が温まる思いだった。

機嫌よく尻尾を振ったりしている姿が愛らしくて、俺はすっかりその猫に夢中になっていた。

 

そんなこんなで、テッサイさんが戻ってくる頃にはすっかり猫と打ち解けていて驚かれたくらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

今回ちょっと短め・・・。更新進まんから細かくしようかと(笑)

 

 

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